FM音源自作キットの雄 『SPFM Light MUCOM PACK』

はじめに

今回は、SPFM LightとRE:birth用OPNAモジュール(以下、OPNAモジュール)がセットになった『SPFM Light MUCOM PACK』(以下、MUCOM PACK)という同人ハードのセット販売品のレビューである。

仕様や特徴の説明に加え、私自身が実際に作った過程や感想なども記載していく。FM音源の実チップ演奏をしてみたいが、購入にあと一つ踏ん切りがつかない、という方に少しでも後押しになれば幸いだ。

※3/27追記
本セットおよび当記事の内容を作製するにあたり、ツイートにてご助言頂きました、よちゅ~ん♪レシピの作者、四谷言ノ助様(@g_yotuya)に感謝申し上げます。

MUCOM PACK 概要

1.SPFM Light

SPFM Lightは、RE:birth用の音源モジュールを最大2枚まで搭載でき、パソコンにUSB接続して使う事を想定された同人ハード、FM音源自作キットの事である。後述の音源モジュールに対応するほか、音源部を自作して様々な音源チップに対応させることもできる。

※だいじなことを いいわすれた これは がし3(@gasshi72 ) というおかたの さくひんだ ! !

2.RE:birth用音源モジュール

RE:birthとはFM音源伝説 Projectによって開発、制作された同人ハードだ。

SPFM Lightと同様に、マザーボード(本体)+音源モジュールの組み合わせで動作するよう設計されている。SPFM LightではこのRE:birth用の各種音源モジュールを同様に利用して演奏できるよう設計されている。

3.MUCOM PACKの入手方法

本体のSPFM LightやRE:birth用音源モジュールと同様、家電のケンちゃん(@kadenken)にて委託される形で売られている。

MUCOM PACKを買えば、OPNA再生環境構築に必要な部材がすべて揃う上に、本体、音源モジュールを別々に買うより価格が安くなるので、できるだけこのセット品が出ている時を狙って購入しよう。MUCOM PACKを含め、SPFM Lightや各音源モジュールの売れ行きはまあまあ好調のようで、入荷してもすぐに売り切れている事もある。

私の場合は、再入荷を知らせるツイートと再入荷お知らせメールがほぼ同時に来たので無事に購入できたが、この後売り切れとなってしまった。まだ在庫があると油断せずに、必要とあらばすぐに購入することをお薦めする。

MUCOM PACKの特徴

1.とにかくお値打ち

公式サイト(https://www.pyonpyon.jp/~gasshi/fm/)によると、前身のSPFM(FMの塔)は「FM音源を本物のFM音源で楽しむ」という目的の為に開発されたというが、今回のSPFM Lightでは更に「パパのお小遣いで購入できるFM音源環境を目的に開発を行いました」という購入者の懐事情に配慮して開発されたという。

  • 個人レベルで作成できる電子工作キット
  • 音源部はRE:birth用のモジュールを利用
  • 高音質や高品質をあえて追及しない設計

上記の特徴からグンとコストを抑えられたのであろうが、頒布者が利益重視していない点もあるのかもしれない。

同人ハードは価格が一概に言えないし、頒布時期も定まっていない。それ故に「欲しくなくても買い時」が明確に存在するのでその点を肝に銘じておくと良いと思う。あの時買っておけば良かった。そう思う同人ハードは山ほどある。

少し話が逸れてしまった。

MUCOM PACKだと、先述のとおり単品ずつで購入するよりも音源チップ(YM2608B,YM3016-D)の分だけ安く買えるのも嬉しい。それでいて家電のケンちゃんの通販でも送料を除けば、店頭販売と同価格の16,524円なので、実店舗に行けない人にも親切価格なのが有難い。

2.カスタムが可能

できるだけ安価でFM音源環境を構築可能にするため、音質・品質の面が少なからず犠牲になった点があるにせよ、それを購入者自身でフォローできるのが良い。電子工作キットなので自己責任の範疇にはなるが、さらなる出費や多少の覚悟をしてでも改造を施してみる価値はあるだろう。

手軽に試せる改造方法として『よちゅ~ん♪レシピ 』というのがあるので、慣れてない人はそれを試しても良いだろう。ただし本体用のパーツに一部生産終了があるのでうまく調達できない場合は代替品を探して使おう。

※SPFM LightのサイトよりPDFにて配布https://www.pyonpyon.jp/~gasshi/fm/spfmlight.html

また、恐ろしいことに魔改造まで施されている例があるのであわせて紹介しておく。

※togetterにまとめられている魔改造の一覧
SPFM Lightは自由に作って良いんだ。

3.MUCOM88 Windows対応

SPFM Lightは対応ソフトで演奏させるために、SCCIという制御APIを使用している。MUCOM88 Windowsがリリースされ、それがSCCIに対応したことによって、実チップでの演奏が手軽にできるSPFM LightとOPNAモジュールの人気に拍車がかかったものと考えられる。

なお、MUCOM88 Windowsとは、PC-88用に開発されたMUCOM88という音楽作成ソフトを、Windowsでも同様に作成できるよう移植したシステムだ。その本家よりも良い環境で音楽作成や視聴ができるようになったことで、昨今活躍するサウンドクリエイターも再びFM音源作品を発表している。なんだか今、FM音源の新たなコミュニティがうまれているのではないだろうか。

サウンドクリエイターの作品を本人たちと同じ環境で演奏できる事は今となってはそうない。それをSPFM LightとOPNAモジュールとで奏でるということは、世の中に溢れるPCMデータの波に抗うようなもの。そう思うとじつに粋なことではないだろうか。

電子工作開始

では、実際にMUCOM PACKを作製していく。私自身、テスターの使い方は知っている程度の電子工作初心者である。うまく行かなかった場合は失敗談として掲載したいと思うが果たしてどうなるだろうか。

1.パーツ調達(よちゅ~ん♪レシピ)

MUCOM PACKでは必要なパーツは全部ある。今回はSPFM Light、OPNAモジュールともによちゅ~ん♪レシピを採用したので別途パーツを、デジット・マルツ・千石電商の店頭販売や、秋月電子通商の通販にて調達した。

2.SPFM Lightの作製

まずは、SPFM Lightと、よちゅ~ん♪レシピのパーツを並べてみよう。

左側が追加した、よちゅ~ん♪レシピのパーツだ。純正パーツから改造対象のパーツをあらかじめ抜いておこう。私の場合これをしなかったため間違えて付けてしまってやり直す羽目になってしまった。なお、黄色いフィルムコンデンサは今は絶版で入手が困難だが千石電商の店頭在庫が僅かにあるのでこの機会に手に入れておくといいだろう。

基板にはVer.1.0Dとあり、2018年12月時点のものらしい。部品同士はかなり密集していて出来るだけ背の低い順に付けていかないと厳しい。部品リストの順にもあるように、抵抗→コンデンサ→ICというふうにはんだ付けしていこう。

各パーツについて、コンデンサやICの不良は見た目しか判断しなかったが抵抗だけはテスターで一つ一つ測定してからはんだ付けをした。目で見てスペックが判るのは良いがそこが裏目に出て不良品があっても気づかないとドツボに嵌ると考えてのことだ。

そのおかげもあってか、この時点ではそれ以外とくに苦労する点はなかった。本来は一番難関であろうUSBユニットに、はんだ付けが必要なかったのはとても大きい。唯一細工したOPアンプ(CANタイプのもの)はもう一つソケットを用意して、そこに足を突っ込んではんだすることするとソケットから脱着可能となるのでやっておこう。

完成するとこのようになる。部品面だけに実装するのでテンポよく3時間くらいで出来上がった。

3.OPNAモジュールの作製

つづいてOPNAモジュールだ。 OPNAモジュールはREV1.4aとあり現段階で最新のものだ。 よちゅ~ん♪レシピのパーツを同じように並べる。お手軽ではあるもののMUSESのOPアンプも混ざっていて、もはやパパのための域を超えている気がするが、目的の為に手段を選ばない事も人生ままあるというもの。

この基板はSPFM Lightよりもはんだ付けの難易度が高いといえる。それは表面実装部品(積セラ、74HC14、DRAM)が少なからず存在するからだ。しかしこれらを実装すればOPNAはADPCMの再生がモジュール側で処理できるので、それを実現させるためにも頑張ってはんだ付けをしていこう。

SPFM Lightと同様、背の引低いパーツからはんだ付けとなるが、表面実装部品を思い切って先に手を付けるのが良いと思う。下手な実装だが見ていただけるとわかるがものすごく余裕のないスペース。先に積コンからつけておくとちょうどその間に74HC14が入るスペースになるので位置合わせがしやすくなる。

メモリは気合の一言。どうしてもADPCMを鳴らしたければ何があってもやるしかない。ちなみに私のはんだこてはコテ先は標準のものを使っているので相当苦労した。コツは、ややたっぷりにはんだを含ませてからDRAMの足にコテを乗せていき、コテ先からのはんだが足に移っていったらスッと次の足へコテを動かす。といった作業をテンポよく繰り返するとうまく行くだろう。私の場合は若干手間がかかったものの一発ではんだ付けができた。量が多すぎてダマになったら慌てずはんだ吸い取り線を使ってリカバーしよう。

はんだ面の表面実装部品が終わったら、その他のパーツをSPFM Lightと同様に背の低いパーツから取り付けよう。向きが決まっているIC類の数が多いため気を付けながら取り付けることになる。逆さまに付けるとやり直しがとても難しいのではんだ付けの前には必ず確認しながらやろう。

全てはんだ付けするとこのような状態となる。こちらもかなりパーツがキツキツの状態で組み込まれている。SPFM Lightよりも時間が掛かり、完成には4時間を要した。

地獄のトラブルシュート

さあ、これでSPFM LightとOPNAモジュールを組み立てる準備が出来た。

ここからはTwitterでログを取りながら動作確認していたので逐次ツイートを引用しながらの説明となる。ここまで読んで頂いてわかるとは思うが、私はかなり「いい加減」な性格なので余計な苦労もした。

検証した環境は下記の通りだ。

■検証用自作パソコン
OS:Windows10 Home 64bit
CPU:Core i7-8700k@定格
MEM:DDR4-3200 8GB*2
GPU:Radeon Vega 64 LE

■検証用ソフト
MUCOM88 Windows

1.音が出ない

まず、電子工作あるあるの、音が出ない(動作しない)に遭遇した。ただ、いきなり煙が出たり壊れたりしていないだけマシというものだろう。ごく稀にチュイーンとかキューンとか音が出るのだが、もちろんこんな音を聴きたくて作製したわけではない。しかし、まだこの時点では私がマニュアルやその他資料をろくに読まず、SPFM Lightのジャンパの意味すらわからずにやっていたのも悪かった。

ここは素直に反省してマニュアルやシルク印刷をきちんと読んだ後、下記の対応をした。

  • SPFM LightやOPNAモジュールのジャンパ設定見直し
  • SPFM Light側のはんだ付け見直し

SPFM Lightに搭載したUSBモジュール(AE-FT232R)はUSB 5Vで動作するモードに切り替える。次にSPFM Light本体の2か所のジャンパにピンを取り付ける。OPNAモジュールの方はとても重要だ。6ピンのジャンパはSSGの出力にかかわるし、3ピンのはクロックに関する設定だ。どちらもシルク印刷を見て正しく設定しよう。あとの3ピンは直接LINE OUT出力させるためだと思われるし、4ピン(ピンソケットが付属していない)は今のバージョンでは使わないようなので無視しよう。

これら設定が終わった後、やはり音が出ないのでSPFM Lightのはんだ付けを見直すことにした。はんだ付けが終わったあとに足をニッパーで切る際に応力が掛かってはんだが離れる事を経験したことがあったので、改めて全部のはんだ付けに対してコテを当てなおした。

2.音が小さい

すると、どうだろうか。ボリュームを最大にするとヘッドホンからノイズだらけの酷い音の中から微かに、だが間違いなくFM音源の音が聴こえてくる。どうやら最初の対応がうまくいったようだ。まだこれでも正常に動かないのは間違いない。再び対応に追われる事となる。

動作させながら部品がショートしていないか軽く押さえていく。あまりやってはいけない所作だろうが、テスターでちまちまやる気も起こらなかったので許して戴きたい。するとSPFM Light基板のOPアンプをグッと押した時に音量が上がる現象を発見。ソケットのはんだ付けが良くないのかと思ってもう一度やり直した。

これで、音質に不満があるものの、一応ボリュームが上がって聴けるような程度になった。そこでタイムアップ。一度は寝に入ったのだが、諦めきれずに布団から起きだして、今度はOPNAモジュール側のOPアンプのソケットもはんだ付けしなおしてみた。すると、今度は音がノイズまみれではなくきちんとした音で出た。多少の違和感をもってして。

3.ADPCMがプツプツする

FMパートは無事に音が出たものの、MUCOM88 Windowsで再生させているサンプル曲のADPCMがブツ切れのような音がする。これはSPFM LightやOPNAモジュール側の問題ではなく、パソコンとの処理のやりとりに何らかの支障があるに違いない。

調べると、USBインターフェースは認識しているので、そこからBMオプションの待ち時間(msec)をデフォルトの「16」から「1」に変更するとプツプツ音切れせずADPCMが軽快に鳴りだしたではないか。(この現象は後で色々したら直ったのでまた「16」に戻した)

無事に音が鳴ったと、早とちりしてツイートした私であったが、気づいていなかった。この時、一点大事なことを見落としていた事に。

しばらく色々な曲を聴いて悦に浸っているところ、なんだかどの曲も物足りなさを感じる。なんだろう、この不思議な感覚は・・・と思っていたら。

4.SSGが出ない

SSGパートが出ていない。ジャンパーは設定している。ボリュームはきちんと上げている。なのに聴こえない。どうしてだ。そんなFM6音とリズムパート、ADPCMまではうまく行っているのに。何度も見返して、両方の基板にはんだこてを当てまくって、当てずっぽうに修理していく。そうこうしているうちに、ノイズまみれの音に戻ってしまった。諦めてしまおうか、そう思ったとき。

5.SSGが小さい

2.での音が小さいと同じ現象が起こっていた。OPNAモジュールのメインボリュームを絞って、SSGボリュームだけをMAXにして再びヘッドホンから出る音に注力すると・・・音が、間違いなくSSGパートが鳴っている。だけどものすごく小さい。

ここで、私は冷静になって一度考えた。ちゃんとFM音源の事を知っておくべきではないかと。そこで、YM2608Bのデータシートをダウンロードして、それぞれのピンからどういう出力がなされているかを確かめた。

どうやら、SSGパートの音は27番ピン、ANALOG_OUTから出力されているという事を発見。ついでOPNAモジュールのYM2608B用ソケットのはんだ付けを確認。なんだかはんだ付けが甘い気がする。そう思ってマシはんだを行い、再び電源を入れる。


BGMはMUCOM88 サンプル曲より
世界樹の迷宮「 鉄華 初太刀 」(C)Yuzo Koshiro 2007-2019

無事にすべてのパートが正常な音量、音質で鳴り出したのであった。長かった、といっても始めて一日くらいでうまく出来たのだからまだマシな方かもしれない。また、パーツを一つも壊していなかったのはラッキーだったともいえる。

私は今回の件で次のように学習した。

  • はんだ不良では壊れたうちに入らない
  • 慌てて作業しても碌なことにならない
  • 手詰まりを感じたら寝てリセットしろ

とにかく、焦らずじっくりと電子回路と向き合うこと。そして、正しい知識をそこから学び取ることが大事なのだと、実体験した私は前より少しはマシになったのかな。

音源の出音について

SPFM側にはLINE IN、LINE OUTのボリュームが、OPNAモジュール側にはSSGボリュームとそれ以外のパートのボリュームが搭載されている。自分でボリュームを微調整しないと曲によっては各音源パート同士の音量バランスが崩れてしまう事もあるので、自分でそのあたりはうまく調整して聴いて戴きたい。

で、肝心の音なのだが、私は以前に作った真空管アンプを介して聴いている。

この真空管アンプを経由することには意味がある。そのままボリュームを上げると爆音すぎて各パートの音色がお互いに主張しまくって収集が付かなくなるところを、真空管アンプを通すことで音場全体を最大限使いながらもお互いのパートが譲り合って一気に気持ちのよい聴き心地へと変化させているのである。

断っておくが爆音すぎて、というのは昔聴いたであろう実機でのFM音源の音のイメージ、つまり劣悪な環境下でFM音源を聴いていた場合だ。よちゅ~ん♪レシピの通りに作ったMUCOM PACKのサウンドはそんな感じにはならなくて「実機の音を発売当時の頃に戻って正しい環境にして聴いているような 」気がするのだ(当時、アンプを噛ませて聴くような人なんてほとんどいなかったからだ)

もちろん、ここからOPアンプや、コンデンサの調整はしていくつもりなので、あくなき探求は続くわけだが、このような手作りだからこそ愛着を感じ、自分好みの環境に作りあげるよろこびがMUCOM PACKにはある。ぜひそこに魅力を感じていただけると幸いだ。

例えば、私は個人的にSSGの出音が好きで、ボリュームは常に多めにしている。曲によってはあまり前面に出さない方が良いものもあるが、極力大きめにセッティングしてあの綺麗でかつ低音から高音までしっかり存在感を主張するSSGを含むサウンドを堪能するわけだ。

おわりに

だから電子工作は面白い

いままで、電子工作なんて面倒だと敬遠していた私だが、何せ今回は出来上がった機材を使い倒すという大きな目的があった。この目的のおかげでモチベーションが高く保つことができ、最後までやりきることができた。電子工作は面白い、とは一言で言えないかもしれないが「好きな機器を電子工作したい」という欲求があればあとは自分でなんとか最後までやり遂げることができるであろう。

購入者自身も全力を尽くそう

同人ハード、頒布者によってはとても親切で、フォローや故障時のサポートなどして頂ける事もあるかもしれない。ただ、それに頼り切りではダメだ。基本的に自分の手にキットが届いた時から自己責任で全てをこなしていかないといけない。組立には己の全力を出し尽くす事が作者への敬意を表すことにもなる。ぜひ購入する機会があれば常にその意識をもって取り組んで戴きたい。

良い同人ハードをありがとう

なんにせよ、私が無事にこのキットを完成させられたのは、製作者・販売サイド、既存ユーザーの皆様の日ごろからの努力と試行錯誤のおかげと言っても過言ではない。末永くこのハードが続いていけますよう、心から祈願するとともに、例のSPW・・・の再販、首を長くして待ち続けております(最後は完全に私信で申し訳ない)